東京地方裁判所 昭和28年(ワ)1831号 判決 1953年11月14日
原告 志村清
右代理人 小川契弐
<外一名>
被告 株式会社日本勧業銀行
右代理人 成富信夫
<外三名>
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
理由
被告が当せん金附証票法に基いて、当せん金附証票(以下宝くじと略称する)の作成、売りさばき、発売及び当せん金品の支払、または、交付について、大蔵大臣及び東京都知事等から委託をうけて、みぎ事務を取り扱つている銀行であること。被告が昭和二十七年四月中東京都知事から委託をうけた宝くじである同都第十回十日くじ、すなわち、その発売価格が一枚金五十円で、当せん金品の割合が一等金二百万円、二等金五十万円(以下省略)で抽せん日が同年同月二十二日の発売をなしたこと、右十日くじのうちB券2組一六二、三五二号が第二等に当せんしたことは、当事者間において争いがない。
また、成立に争いのない乙第二号証と証人橋本武雄の証言から右当せん十日くじは、原告が昭和二十七年四月十九日午後四時半頃、東京都新宿区新宿三丁目三十六番地、株式会社千代田銀行新宿支店前の原告の宝くじ売りさばき所で売りさばき中、竊取された右百十七枚の十日くじのうちの一枚であつたことが認定できる。そして、被告が右盗難によつて蒙つた損害の填補として、右盗難十日くじにつき、その発売価額と同額の損害が生じたものとして、一枚金五十円、百十七枚分金五千八百五十円を受け取つたことは当事者間において争いのないことである。
さて、原告は、右損害金を原告において弁済したと主張するので、果して、原告が賠償による代位によつて、その完全な権利者となるかいなを考察する。
成立に争いのない甲第一号証の一ないし四や右乙第二号証や前示証言により訴外日本勧業証券株式会社は、被告から右十日くじの売りさばきを委託されている売りさばき人であるが、同訴外会社が、前記賠償金五千八百五十円を、まず、原告から受けとり、さらにこれをもつて、同様賠償金として被告にその支払をなしたこと、並びに、右訴外会社は、被告から委託された右十日くじの売れ残りくじについては、その抽せんの直前に、これを被告に返還する義務を負うものであること、また、原告は、右訴外会社に、右くじ売りさばきのため、臨時にやとわれて、その売りさばきを担当するものであるが、原告の手許にある売れ残りくじについても、抽せん前の所定の日時までに、それを右訴外会社に返還する義務を負うものであることが認められる。
しかるところ、原告は、右損害填補金がいかなる債務の不履行を原因とするものであるか、ことに、右売れ残りくじ、すなわち被告において末発行分として処理するものとして、それら十日くじの返還不能を原因としている賠償金か、あるいは、被告において売りさばきずみ十日くじとして扱うものとの前提で、その売りさばき代金の返還不能を原因とする賠償金か、さらに、発売価格と同額の損害を填補する根拠など必要な主張をなさず、ひいては、原告が右損害賠償によつて代位するに至る理由や、代位によつて得る権利の内容についても、原告の本訴請求を理由あらしめるに足る主張をなさず、その点において、主張自体理由を欠くものと言うべきである。
もつとも、前段記載の様に、被告において、盗難十日くじについて、その発売価額と同一の金員を賠償金として受け取つたのは十日くじの有価証券である性質上、盗難十日くじの取得者も、適式な所持人、すなわち、その購入者として立ち現れる場合もあることを考慮して、被告が、それら発売ずみ十日くじとして扱うものとも、推認できないことはないが、仮りに、前示盗難十日くじをその様に処理し、被告が、まず、その所有権を取得し、前示訴外会社や原告がこれを代位することができるとするも、かかる場合、被告をもつて、その購入者と解することができないことは、当せん金附証票法上、購入者とは、受託銀行から直接に購入したものを指すことから明らかである。
なお、原告は、右当せん十日くじの盗難被害者として、現にこれが占有をなす被告に対し、その返還を請求できる旨主張するも、原告は、これが返還によつて、前示訴外会社のための代理占有を回復するに止まり、直ちに、その所持人となり、購入者となるものでないこともすでに説明したところから明らかである。
従つて、原告の本訴請求は、その余の点について、さらに、判断をすすめるまでもなく失当であるから、本訴請求は、これを棄却すべきものとし、訴訟費用について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文の通り判決する。
(裁判官 西岡悌次)